背中をわずかに屈めて、薄暗い廊下に
極めて尊大で高圧的な彼はすわっていた。

「なにしてるの」

ぽそりと呟くと

「・・おまえには関係ない」

と予想をはずして答えが返ってきた。
いつもならば無視の筈だ。
そしていつだって清潔な身なりの彼が
ほの暗く微細な埃が薄く張っている地べたに座り込むなんて!

普段の彼からはおおよそ想像つかない行動と空気に、
いっそ笑い飛ばしたいほどの陰鬱さを感じた。

「分かる訳ないよ」
マルフォイがどんな事になっているか、
私が何をするべきか。

「・・・」
「だってマルフォイはなんにも私に言ってくれないものね?」

何が一番彼にとって救いとなるのか、見当もつく筈がない、
彼はいつだって私を彼の中から半永久的に追い出そうと努力してきたのだから!

「うるさいと思ったでしょ、黙れと思ったでしょ」
「ああ、ひどく耳障りだ、だから失せろ、今すぐ僕の前から」

はじめて顔を上げたマルフォイの目は窪み、
グレーの瞳をたたえた白目はうっすらとりんご色に染まっていた。


なんだ、泣いていたのか


「泣いていいのに、泣きなよ、ほら」
「一体どこの誰がなぜ泣くっていうんだ、意味が分からないな」

「早く僕の前から失せろ、お前はいつもいつも目障りなんだ!」
「はい、前から失せた」

マルフォイの横に腰を下ろすと、なんとも泣きたそうな顔をした
マルフォイがこちらを恨めしそうに睨んでいる。

「お前なんか死んでしまえばいいんだ、」
「あはは、じゃあマルフォイが殺してくれる?」
「ふざけるな、汚らわしい、誰がお前なんかを」

「お前なんか、」
「お前なんか、なに?」
「・・・」
「言葉に詰まるくらいなら口に出すなよな、ばぁか」
「うるさい、馬鹿はお前だ・・、くそっ」

マルフォイは膝を抱えて俯いた。
綺麗に撫で付けられたブロンドの髪にそっと手を置く。


「ねえ、マルフォイ」



「きみは冬を越せないね」

(あまりにもきみはおくびょうでかよわすぎる)



しばらくして平手の乾いた音が夜の薄暗い廊下に響いた。


(090807)
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メンタル豆腐ってかわいい、すごく